横浜市民ギャラリーあざみ野 | Yokohama Civic Art Gallery Azamino

フォト・クラヴァト [Gallery on the WEB vol.60]

エドムント & レオン・ブロシュ/1890年

フォト・クラヴァト
フォト・クラヴァト/エドムント & レオン・ブロシュ/1890年
 19世紀末、撮影時間が短く扱いの簡単なゼラチン乾板が普及するにつれて、カメラは小型化が進み、三脚に据え付けて使うものから、自分の身に携えて楽しむものに変化していきました。すると、鞄型、双眼鏡型、本型、時計型、杖型など、一見カメラに見えない様々な日用品の姿を借りたカメラが出現します。

 1890年にフランスのエドムンド&レオン・ブロシュによって発売されたフォト・クラヴァト(cravate=フランス語でネクタイの意)は、ネクタイの下に薄い金属製カメラを忍ばせた隠しカメラです。ネクタイごと首から下げて、チューブが付いたゴム球を握ることによって空気圧シャッターを作動させ、撮影を行います。撮影に馴れた人は、ゴム球を握ったり緩めたりする時間を変えることによって、露光時間を調節することが出来ました。撮影後は、カメラ本体中央のノブを回すと、内部のチェーンに付いた6個の乾板フォルダが回転して撮影済乾板が送られ、次の乾板がレンズの前にセットされる仕組みになっています。ネクタイは取り外しが出来て、様々な色や柄の交換用ネクタイが別売で販売されました。

 フォト・クラヴァトのような隠しカメラは、当時急増したアマチュア写真愛好家に遊び心あふれた新しい製品として愛されましたが、後に本格的な諜報活動の道具へと発展していきました。

*情報誌『アートあざみ野 vol.65』(2023年8月末発行)「Gallery on the Magazine vol.60」より転載
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